遺贈寄付はエンディングではない。寄付者と伴走し、社会とつながるきっかけを作りたい/全国こども食堂支援センター・むすびえ
子どもが一人でも行ける無料または低額の食堂である「こども食堂」は、全国に9,000箇所以上に広がっています。「こども食堂の支援を通じて、誰もとりこぼさない社会をつくる。」をビジョンに掲げ活動しているのが、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ(以下、むすびえ)です。2018年に設立され、2021年より遺贈寄付の取り組みを始めました。取り組みを始めた経緯や反響を遺贈寄付チームの甲斐さんにお聞きします。
___むすびえにおける遺贈寄付の取り組みについて、背景を教えてください。
遺贈寄付は、私たちが支援するこども食堂の取り組みに非常に近しいところがあると感じています。
私たちは、遺贈寄付は寄付をして終わるのではなく、寄付をきっかけに地域とつながるスタートになりうるのではないかと思っていて、これはこども食堂も同じだからです。むすびえにとって、遺贈寄付が寄付のいち手段ではなく、「社会にとって必要なもの」という認識からスタートしました。
むすびえでは「こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる。」というビジョンを掲げています。遺贈寄付の取り組みに共感し、社会の中でもっと遺贈寄付が盛り上がってほしいと感じていました。
2021年に遺贈寄付の取り組みをスタートしてから、問い合わせや申し込みの数は、年を追うごとに増えています。
___遺贈寄付が「寄付をきっかけに地域とつながるスタートになりうる」ということで、大切にしてきたことはありますか?
「遺贈寄付」と聞くと、どうしても「エンディング」とか「人生の終わり」というイメージがこれまでは強かったと思います。私たちはそういったイメージを払拭し、「遺贈寄付こそがはじまり」「社会とつながるスタート」ということを全面的に打ち出すようにしてきました。
むすびえのホームページを見てお電話をくださった方からは、「遺贈寄付先がやっと決まったわ」「これで安心だわ」といったように、ほっとされたというお言葉をいただきますが、ほかにも、「社会の役に立てると思ったらわくわくしてきた」「遺言書ができたらこれで応援できるのね」といった、未来に自分が関わることへの楽しさややりがいをお聞かせいただくこともありました。
スタートして3年とまだ日が浅いですが、思いが伝わっていることがとても嬉しいです。
___むすびえで遺贈寄付を検討される方にはどのような傾向があるのでしょうか。
遺贈寄付先を探しているときに「むすびえ」を知り、取り組みに興味を持ってくださって寄付を検討される方が大半を占めています。お話を伺うと、幼少のころに食べ物で苦労なさった経験をお持ちだったり、ご両親が共働きのかぎっ子で「家に帰るとすごく寂しかった」「居場所が欲しかった」という思いがあったり、幼少期の体験をお話される方もいらっしゃいました。
___遺贈寄付で、特別な使い道はありますか?
遺贈寄付では特定の使途は定めておらず、むすびえの事業に広く活用させていただいています。
こども食堂は全国に9,000箇所以上あり、地域やタイミングでニーズは変化します。例えば、コロナ禍前は会食形式で集まって食事をしていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって「感染症対策の情報を得るために何をすべきか」「会食形式を続けるためにパネルを手配しよう」などと、ニーズはどんどん変わりました。
消毒薬やパネルといった物資が必要になったり、感染症に対する情報が必要となり講演会や学習会を開いたり、会食形式が難しくなってからはお弁当にするために容器を手配したり......状況によって必要なものは変わるので、そのとき一番必要なものを私たちは提供したいと思っています。
ただ、ご相談をいただく中で、「地域」を指定してご希望される場合がときどきあります。ご自身の故郷や子育てをしていた町など、「思い入れのある場所のこども食堂に支援をしたい」と、大切な財産を寄付してくださる方もいらっしゃいます。そのような場合には、地域の窓口となる団体や自治体をご紹介させていただくこともあります。
___甲斐さんをはじめ、遺贈寄付チームが日々大切にしていることはどんなことですか?
私たちむすびえは、寄付をして終わりではなく、”社会とつながるきっかけ”として考えて、活動してきました。ご相談をお受けする遺贈寄付チームは、ご相談いただいた方々が社会と新たにつながるための「コンシェルジュ」のような役割でいたいと考えています。
遺贈寄付を検討している方のお話をじっくり聴き、思いの裏にある願いや求められていることを大切に汲み取りたいと思っています。ひとりで食事をすることの寂しさを知っているから興味を持ってくださったのか、子どもたちの役に立ちたいという思いからなのか等、ていねいにヒアリングを重ねます。ときには「お近くのこども食堂に一緒に行ってみませんか」と声をかけて見学していただくこともあります。
声をかけた当初は戸惑っていた方も、今では毎週のようにこども食堂へ足を運ばれています。身近に支援を実感できる場所があり、遺贈寄付をきっかけに新しいつながりが生まれることが、むすびえの良さだと感じています。
___遺贈寄付から居場所を見つける方もいらっしゃるんですね。
そうですね。ボランティアをされている方が「運営にも関わりたい」「自分でもこども食堂を始めてみたい」とおっしゃることもあります。相続財産からご寄付された方は、お金だけではなく、本やレコードなど、大切にされてきた物を寄贈されたこともありました。遺贈寄付の取り組みを通して、寄付にもさまざまな形があることを実感しています。
2023年9月にホームページをリニューアルし、遺贈寄付のページも見やすく充実させました。お問い合わせフォームや遺贈寄付専用ダイヤルからのお問い合わせは私たち遺贈寄付チームにつながります。さらにお電話やオンライン、対面などでの面談を設けて、お話を伺っています。
私たちむすびえの遺贈寄付は、お一人おひとりの声をきちんと聴き取ることから始まります。
ヒアリングを通して、寄付者の方の思いや望んでいること、ご自身でも気づいていなかった願いを一緒に見つけていきます。その中で「誰かの役に立てるのが嬉しい」「遺贈先がやっと見つかった」とお話しくださる方もいます。寄付をしていただいて終わりではなく、寄付者の隣で伴走するような気持ちで関わっています。
___遺贈寄付に関する新しい取り組みはありますか?
2021年に遺贈寄付の取り組みを始めた当初、むすびえでは遺贈寄付に関する実態調査を行いました。全国3,000人、50代から80代の方を対象とした大規模調査で、昨年度はその追跡調査を行いました。遺贈寄付に関する関心やこども食堂の認知度などをクロスして集計し、ホームページで発表しています。ぜひご覧ください。
また今後は、遺贈寄付を通じて、地域で支援が循環する仕組みをつくることを目指していきます。現在47都道府県すべてにこども食堂があり、それぞれの地域でこども食堂を支えてまとめているのが「地域ネットワーク団体」です。この地域ネットワーク団体や、地域のステークホルダー(例えば、遺贈に詳しい専門家・士業の方など)と連携して、地域のこども食堂を支援したい方が直接地域のこども食堂とつながって支援(遺贈)ができる、そんな未来を作れたらと思います。
そのためにむすびえは、地域ネットワーク団体が遺贈を受けるための体制づくりや、知識習得のサポート、専門家のサポートを受けられる仕組みづくりなどをバックアップしていきたいと考えており、今後取り組んでいきます。
___最後に遺贈寄付を検討している方へ一言お願いします。
ぜひ、お近くのこども食堂へ足を運んでみませんか。子どもたちやそのご家族、地域の姿が見え、こども食堂がどんなところか実感できると思います。遺贈寄付がどのような支援につながるか、ご自身の目で見て感じていただけたらと思います。
むすびえでは、ご自身が亡くなられた後に財産を寄付する「遺言によるご寄付」のほか、ご相続人が相続財産を寄付する「相続財産からのご寄付」、お香典返しの代わりに寄付をする「お香典・御花料のご寄付」といった形でもお受けしています。
税理士、弁護士等の専門家のアドバイスを受けられる体制を整えていますので、お気軽にご相談ください。
<Q&A>
Q 遺贈寄付の遺言書を作成することでもらえるものはありますか?
弊団体の活動を知っていただくためのリーフレットや遺贈のパンフレットをお渡ししています。
Q 寄付金の使われ方を教えてください。
むすびえのビジョンである「こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる。」ため大切に使わせていただきます。各地のこども食堂への物資の支援や助成金、多様なプログラムをこども食堂で実施するための事業費、こども食堂の現状を調査するための費用などに活用させていただきます。
詳しくは、遺贈寄付の専用ダイヤル(0120-826-320)までお気軽にご連絡ください。
遺贈寄付特設サイト:https://musubie.org/support/legacy/
・団体名
認定特定非営利活動法人全国こども食堂支援センター・むすびえ
Certified Nonprofit Corporation Nationwide Children’s Cafeteria Support Center, Musubie
・所在地
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-27-5 リンクスクエア新宿16F
・代表者
理事長 湯浅 誠
・設立年
2018 年
・受賞歴
2021年5月 認定NPO法人認証取得
2021年10月 非営利組織評価センター(JCNE)グッドガバナンス認証取得
2024年3月 ウェルビーイングアワード 2024 活動・アクション部門グランプリ受賞
・ビジョン
こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる。
・ミッション
こども食堂が全国のどこにでもあり、みんなが安心して行ける場所となるよう環境を整えます。
こども食堂を通じて、多くの人たちが未来をつくる社会活動に参加できるようにします。
・活動内容
1. 地域ネットワーク支援事業
こども食堂や地域ネットワーク団体が個性を発揮しながらつながり、資源と想いの循環が進むことを目指します。現在、47都道府県すべてにこども食堂があり、また各地でこども食堂運営者らの情報交換や意見交換、さらにはスキルアップや広報啓発のための「地域ネットワーク団体」が生まれています。
私たちむすびえは、全国各地の地域ネットワーク団体の方たちをパートナーとして、全国の各現場から現状や課題について学び、むすびえから全国各地の状況をお伝えし、寄付やサービスの仲介を行うほか、「地域ネットワーク団体」の立ち上げ支援を行なっています。
2. 企業、団体との協働事業
社会の多様な主体がこども食堂とつながり、社会性・市民性の発揮が進むことを目指します。むすびえは、全国にあるこども食堂の地域ネットワークを通じて、企業や団体からの寄付やプログラムなどを個々のこども食堂につないでいます。現在、 寄付付き商品の販売を原資とした運営費等の寄付や食品、昔遊び体験などのプログラム提供を仲介しています。全国には、各地毎の企業や団体等が協働した事例もたくさん生み出されています。
<代表者からのメッセージ>
湯浅 誠さん
認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事長
「0歳から100歳までの方が集まるごちゃまぜの空間を作りたい」「地域みんなが気軽に立ち寄れる居場所にしたい」――多くのこども食堂のみなさんの想いです。こども食堂は「公園」のような場所だ、と感じます。誰が来てもいい、一人でもいいし、友だちと一緒でもいい。行くのが楽しみになる所です。
こども食堂は全世代交流の地域の居場所として広がってきました。全国約9,000箇所のうち、「どなたでもどうぞ」と誰でも受け入れているこども食堂が6割、実際に高齢者が参加しているこども食堂も半数に達します。地域が寂しくなってきた中で、にぎわう声を聞きたいというのは、人の本能です。
こども食堂は人の本能に根ざしているがゆえに、自主的に広がり続けています。
こども食堂を 89 歳で始めた方が 91 歳で亡くなったとき、在宅での看取りを地域の方々が担いました。こども食堂は そうした「つながり」をつくります。人と人とのつながりを実感できる地域と社会を遺したい――むすびえはそのために活動しています。
私は30 年来、貧困問題を始めとする日本の諸課題に取り組んできました。「理解されない」と感じることも多かったのですが、地域・社会・世界は、私が大切だと思う「つながり」を重視する方向に進んできています。
それは誰もが認めざるを得ないほど、つながりが失われてきたからです。失いかけてから求める――望ましくはありませんが、人とはそのようなものでしょう。でも、気づいた人たちの行動 は、こども食堂が 年間1,000件以上のペースで増え続け、2023年度には全国の中学校の数に迫る数という形になって表れました。
こうした取組みの輪がさらに広がれば、世界はきっと人間らしさを取り戻していくでしょう。
あなたの参加をお待ちしています。