子育て家族を「まるごと」支えたい。遺贈寄付で子どもを産んでも当たり前に働ける社会を/ノーベル
子どもが病気になったときに預け先がない。今でもこの国に根強く残る大きな課題に、「当日予約100%対応」の訪問型病児保育で立ち向かうため、2009年に設立された認定NPO法人ノーベル。病児保育から始まり、2023年秋にスタートした子育て家族をまるごとサポートする新事業を通じて、子どもを産んでも当たり前に働ける社会をつくっていこうとする団体の取り組みと遺贈寄付に寄せる思いを、代表理事の長谷亜希さんにお聞きしました。
(取材日:2024年5月2日)
代表理事 長谷 亜希さん
認定NPO法人ノーベル 代表理事。2009年ノーベルを立ち上げ、関西初となる共済型病児保育事業を開始。ひとり親向け支援や行政との協働も積極的に取り組んでいる。
___まず、ノーベルの事業内容について教えてください。
「子どもを産んでも当たり前に働ける社会」を実現するために、2009年にノーベルを立ち上げました。子どもが熱を出した時に、働く親御さんに代わって自宅でお子さんをお預かりする「訪問型病児保育事業」を中心に、15年間活動を続けてきました。当日の朝8時までにご連絡をいただければ100%対応する方針で、これまで約5000家族をサポートしてきました。訪問型病児保育の利用数は、累計2万件以上になります。
2023年には、新たに「子育て家族のまるごとサポート事業」をスタートしました。これは、簡単に言えば「介護保険制度の子育て版」のようなものです。介護保険制度では、ケアマネージャーが相談に乗り、それぞれの状況に応じて必要なサービスにつなげていきます。子育てにおいても、各ご家庭ごとにさまざまなニーズがあります。そこで、スタッフが一緒に計画を立てて必要な支援につなげたり、ケアスタッフがサポートに入ったりします。
病児保育として一時的に子どもを預かるだけではなく、家事や夫婦のコミュニケーションなどあらゆる困りごとに対応して「子どもを産んでも当たり前に働ける社会」の実現を目指しています。
___「子育て家族のまるごとサポート事業」をスタートしたきっかけは何ですか?
子育て世帯の困りごとは病児保育だけではありません。「病児保育のノーベル」から「総合的に子育てをサポートするノーベル」に発展していきたいという思いで新事業を立ち上げました。2023年の秋に事業をスタートして、現在30組のご家族をモニターしていますが、困りごとはご家族によって実にさまざまです。
例えば、双子が生まれたご家庭では産後ケアに入って欲しい場合もあれば、夫婦のコミュニケーションが上手くいかないので夫婦で一緒にワークをやってみたいというケースもあります。家事を手伝ってほしかったり、シングルマザーの方が上の子を構ってあげられなかったりと、困りごとは世帯によって異なります。
病児保育というくくりだけでは解決できない困りごとがたくさんある中で、別のサービスをつくったとしても、やがてそれにも収まらないことになります。解決できる困りごとを限定しないために、あえて「サービスをつくらない」という考えのもと、個々の人に向き合ってサポートしていく事業を立ち上げました。
___遺贈寄付に取り組み始めたのは、どのような思いからですか?
遺贈寄付を取り組み始めた一番の理由は、「誰もが利用できるセーフティーネットをつくりたい」という思いからです。それは、私たちがNPOという法人格を選んでいる理由でもありますが、利用したい時に誰でも利用できるものにしていきたいという思いを創業当初からもっていました。そのため、ひとり親や障がいを持つお子さんがいる家庭にも、寄付を募ってサポートを提供してきました。
しかし、世の中を見渡してみると、サポートが必要な方はまだまだたくさんいらっしゃいます。訪問型病児保育も、子育て家族のまるごとサポート事業も費用を負担できない方のために寄付を募り、サポートできる範囲をひろげていきたいという思いから遺贈寄付に取り組み始めました。
___寄付の中でも「遺贈寄付」という形を選んだのはなぜですか?
私自身、遺贈寄付という考え方が素敵だなと思っています。遺贈寄付に出会って、自分の願いを思いやりとして社会に残せる、そんな選択肢があることを知りました。「社会のために何かしたい」と考える方は増えてきていますし、自分の資産をどのように使うか考える人も増えている中で、遺贈寄付という方法に可能性を感じました。
___遺贈寄付に関するこれまでの取り組みを教えてください。取り組みを進める中で難しさなどを感じることはありますか?
遺贈寄付の取り組みを始めてまだ1年半ほどですが、「えんギフト」(日本承継寄付協会が発行する遺贈寄付の冊子)に掲載していただいたことをきっかけに、個人の方や士業の事務所から「どのような活動をしているのですか」という問い合わせをいただくようになりました。
その後、ガイドブックやホームページを作成したり、つながりのある士業の方に発信したりと、一つひとつ積み重ねているところです。遺贈寄付の認知は少しずつひろがってきていますが、中にはネガティブに捉える方もいらっしゃると感じています。遺贈寄付がどういったものなのか、そこから一つひとつご説明していきますが、もっと簡単に、楽しく伝えられるようになるといいですね。私たちだけでなく、いろいろな団体の皆さんと一緒にやっていきたいと思っています。
___それでは最後に、遺贈寄付にご興味をお持ちの方へのメッセージをお願いします。
私たち一人ひとりの積み重ねが社会をつくっていきます。日本の社会がどうなって欲しいのか、遺贈寄付が未来のことを考えるきっかけとなればいいですね。さまざまな社会課題がある中で、私たちノーベルを選んでご寄付を寄せてくださった皆さまと一緒に未来をつくっていきたいと願っています。
訪問型病児保育で、ひとり親や世帯年収300万円以下のご家庭や、お預かりに専門性が必要な障がいをもつお子さんがいるご家庭に、安価に病児保育を利用していただくために活用させていただきます。
また、新たにスタートした「子育て家族のまるごとサポート」の事業開発や担い手の育成にもご寄付を使わせていただきます。子育て世帯を支えるためには、その担い手がイキイキと働ける土台づくりが不可欠になります。専門性を身につけるための学びの機会の提供や、保育者同士のつながりづくりのために大切に寄付を活用させていただきます。
・団体名
認定NPO法人ノーベル
・所在地
大阪府大阪市中央区内本町2-4-12 中央内本町ビルディング701
・代表者
代表理事 長谷 亜希
・設立年
2009年
・受賞歴
2022年 マサチューセッツ工科大学ソーシャルインパクトアワード ファイナリスト選出
2021年 Google.org インパクトチャレンジ for Women and Girlsに選出
2019年 第13回大阪商工信金社会貢献賞(ソーシャルビジネスの部) 受賞
<ビジョン>
子どもを産んでも当たり前に働ける社会
<ミッション>
たすけあえる仕掛けをつくる
<活動概要>
2010年関西初となる訪問型病児保育事業を開始。「深夜に子どもが発熱。でも明日は仕事を休めない」そんな働く親御さんを支える「当日予約100%対応」の訪問型病児保育を無事故で21,000件以上提供。23年秋、育児家事をスムーズにする家庭内の仕組づくりや生活まわりをケアする「子育て家族のまるごとサポート」事業を開始。
主な活動
1.ドノ親子ニモ応援団プロジェクト
経済的な困難を抱える「ひとり親家庭」、お預かりに専門性が必要な「障がいを持つ子ども家庭」に安価に病児保育を提供。所得の格差や障がいの有無に関係なく、誰もが利用できるセーフティーネットをつくります。
2.子育て家族のまるごとサポート事業
育児家事をスムーズにする家庭内の仕組づくりや生活まわりをケアし、子育て家庭が抱える日々のまわりづらさや頼みづらさを解消します。子育てをチームで支える、まさに介護制度の子育て版をつくろうとしています。
3.担い手育成支援
子どもの預け先やサポートを拡充するためには、担い手が欠かせません。保育者同士のコミュニティづくりやより専門性を身につけるための研修などを行い、担い手がイキイキと働き続けられる環境を整備します。